1968年:高度経済成長と社会的緊張が交錯した年
1968年は、日本にとって社会、政治、経済、そして文化が急速に変化し、多くの歴史的な出来事が展開された重要な年でした。高度経済成長が続く中で、日本は戦後の復興を超え、世界的な経済大国としての地位を確立しつつありました。しかし、その一方で、社会問題や政治的な対立も顕著となり、学生運動や労働運動、反米感情などが表面化し、国内外でさまざまな緊張が高まった年でもありました。
1968年当時、日本は高度経済成長期の真っ只中にありました。戦後復興の加速とともに、産業が大きく発展し、経済成長率は飛躍的に向上しました。日本の自動車産業や家電産業が急成長し、日産自動車やトヨタ自動車といった企業が世界的に注目を集めるようになり、この年にはトヨタが「スプリンター」を、日産が「ローレル」を発売して、国内外での需要に応える形でさらなる成長を遂げました。
しかし、急速な経済成長は社会にさまざまな問題をもたらしました。例えば、環境問題が顕著になり、イタイイタイ病が公害病として正式に認定されるなど、経済成長の陰で環境汚染が深刻化しました。この公害問題は、その後の日本の環境政策に大きな影響を与え、国民の間で社会問題として認識されていきました。
政治的には、佐藤栄作政権が進める政策が国内外で注目されました。特に、非核三原則に言及した国会答弁は、日本の平和外交の象徴として広く知られることとなりました。一方で、国際的な問題として、原子力空母「エンタープライズ」の佐世保寄港が大きな波紋を呼び、これに対して学生や市民団体が反対運動を展開し、日本の安保問題に対する関心が高まりました。
また、この時期には、全国的に学生運動が活発化していました。東京大学の学生が大学運営に反対して無期限ストライキに突入した「東大闘争」はその一例で、日本全国の学生運動に火をつけ、多くの大学で抗議行動が続きました。これらの運動は、単なる大学の内部問題にとどまらず、社会全体に対する不満や改革の要求を象徴するものとなり、政治と学生の対立が激化する場面が増えていきました。
経済的には、金融市場でも大きな変動が見られ、公定歩合の引き上げや株価指数の導入が行われました。また、食品業界でも新しい動きがあり、レトルトパウチ食品「ボンカレー」や日清食品の「出前一丁」が登場し、日本人の食生活がさらに多様化していきました。これらの新商品は、利便性を追求する時代のニーズに応え、日本の食卓に革命をもたらしました。
さらに、1968年には東名高速道路の一部が開通し、名神高速道路と接続されました。これにより、交通インフラが大きく改善され、日本国内の物流や旅行の利便性が飛躍的に向上しました。都市化の進展を象徴する出来事としては、霞が関ビルディングの完成が挙げられ、日本初の超高層ビルとして話題を集め、東京の未来像を示すものとなりました。
国際的な観点から見ると、1968年は日本が国際社会での存在感を増していく時期でもありました。特に、アメリカとの関係が重要なテーマで、原子力空母が日本に寄港したことや、小笠原諸島がアメリカから日本に返還されたことなど、米国との関わりが日本国内で大きな議論を呼びました。こうした出来事を受けて、米軍基地問題や日米安保条約に対する議論が激化し、反米感情が一部で高まる場面も見られました。
文化面でも、この年は多くの変化が見られました。特に、テレビアニメ『巨人の星』が放送を開始し、スポ根ブームが全国的に広がりました。このアニメは、努力と根性を強調する内容で、多くの視聴者に感動を与え、日本のアニメ文化の一つの転換点となりました。また、漫画雑誌「ビッグコミック」が創刊され、青年向け漫画という新たな市場が形成されていったのも、1968年の特徴的な出来事です。
音楽業界では、1968年にオリコンランキングがスタートし、ヒット曲の指標が確立されました。これにより、アーティストやレコード会社がランキングを意識するようになり、音楽の商業化が進展しました。ファッション面では、モッズスタイルやヒッピームーブメントが日本にも浸透し、若者文化が多様化していきました。
1968年は、このように日本の高度経済成長が続く一方で、社会的・政治的な緊張が高まり、学生運動や反米感情、公害問題などが浮上した年でした。文化的には新しいトレンドが生まれ、音楽やテレビアニメが日本の社会に大きな影響を与えました。この年の出来事は後の日本に大きな影響を与え、現代の基盤を形成する重要な年だったと言えるでしょう。
1968年の昭和歌謡:グループ・サウンズとフォーク旋風が巻き起こる年
1968年の日本の音楽シーンは、グループ・サウンズ(GS)が全盛期を迎え、多くの若者を中心に熱狂的な支持を集めていた年でした。テンプターズやタイガースといったグループが代表的であり、彼らの音楽はその斬新さやエネルギッシュなパフォーマンスによって、新しい時代の到来を感じさせました。特に若者たちは、ロックやポップスに影響を受けた彼らの音楽に夢中になり、日本の音楽シーンに新たなトレンドをもたらしました。
一方、中村晃子の「虹色の湖」がヒットし、彼女は「一人GS」とも呼ばれる存在感を示しました。この曲はキャッチーなメロディーと彼女の力強いボーカルが特徴で、若者だけでなく幅広い層からも支持を得ました。また、1968年にはアングラ・フォークからザ・フォーク・クルセダーズが「帰って来たヨッパライ」で大ブレイクしました。この曲は、そのユーモラスで風刺的な歌詞と、独特のサウンドが話題となり、アンダーグラウンド音楽が主流メディアに登場するきっかけとなりました。
世界的には、ビートルズの「ヘイ・ジュード」がビルボード年間チャートの1位を獲得するなど、海外の音楽シーンも影響力を持ち続けていました。ポール・モーリアの「恋はみずいろ」や、オーティス・レディングの「ドック・オブ・ベイ」といった楽曲も日本国内で愛され、洋楽が日本の音楽シーンに深く浸透していたことがわかります。
この年、日本の音楽業界にとって重要な出来事として、3月1日に米国CBSと日本のソニーが共同で設立した「CBS・ソニーレコード株式会社」の誕生が挙げられます。この合弁会社は、資本自由化の象徴とも言えるものであり、日本の音楽市場が世界と接続する第一歩となりました。この流れは、日本の音楽がグローバル化していくきっかけとなり、その後の日本の音楽業界に大きな影響を与えました。
さらに、11月4日にはフジテレビ系列で『夜のヒットスタジオ』が放送を開始しました。この音楽番組は、当時の最新ヒット曲を紹介しながらアーティストたちのパフォーマンスを楽しむもので、20年以上にわたって夜の音楽番組として親しまれることになります。アーティストたちがこの番組を通じて大衆に広く知られ、人気を獲得する場ともなりました。
1968年の音楽イベントとしては、12月21日に行われた第10回日本レコード大賞で、黛ジュンの「天使の誘惑」が大賞を受賞しました。彼女の甘く艶やかな歌声と、そのミステリアスな楽曲が当時のリスナーに強く響きました。また、12月31日の第19回NHK紅白歌合戦では、紅組司会に水前寺清子、白組司会に坂本九が選ばれ、番組に新たな風を吹き込みました。特に、水前寺清子の「男でよいしょ」、黛ジュンの「天使の誘惑」、ピンキーとキラーズの「恋の季節」など、紅組のパフォーマンスは圧倒的な支持を集めました。
また、この年には、1966年にリリースされてヒットした千昌夫の「星影のワルツ」が引き続き人気を集めており、彼の歌う切なくも美しいメロディーが日本中で愛され続けました。この曲はムード歌謡の代表曲として広く知られ、後の音楽シーンにも大きな影響を与えました。同じく「たそがれの銀座」で人気を博した黒沢明とロス・プリモスや、舟木一夫の「喧嘩鳶」なども、この年の重要なヒット曲としてリスナーの心に残りました。
1968年は、こうした新しいアーティストやジャンルが台頭した年であり、日本の音楽シーンに多様性が生まれた時期でもありました。グループ・サウンズ、フォーク、ムード歌謡など、様々なジャンルが共存し、それぞれのリスナー層を開拓していきました。この多様性が、後に続く1970年代の音楽シーンの基盤を築き、より幅広い音楽的表現が可能になりました。
総じて、1968年は日本の音楽シーンにとって変革と革新の年でした。新しいサウンドやアーティストが次々と登場し、リスナーの興味を引き続けることに成功しました。特にグループ・サウンズのブームは短命でしたが、その後のロックやポップスの発展に大きな影響を与えました。また、フォークソングの台頭は、音楽が単なる娯楽から、社会的メッセージを発信する手段としての役割を強調する動きへとつながりました。このように、1968年の音楽は後の日本の音楽シーンに深く影響を及ぼし、その多様性と革新性が今なお語り継がれています。
1968年(昭和43年)の名曲、ヒット曲リスト
以下に、1968年のオリコン総合シングル・チャート(邦楽・洋楽総合)を紹介します。
1位 千昌夫:「星影のワルツ」
2位 ザ・フォーク・クルセダーズ:「帰って来たヨッパライ」
3位 ピンキーとキラーズ:「恋の季節」
4位 鶴岡雅義と東京ロマンチカ :「小樽のひとよ」
5位 伊東ゆかり:「恋のしずく」
6位 ザ・タイガース:「花の首飾り/銀河のロマンス」
7位 サイモン&ガーファンクル:「サウンド・オブ・サイレンス」
8位 小川知子:「ゆうべの秘密」
9位 ビージーズ:「マサチューセッツ」
10位 ザ・タイガース:「シー・シー・シー」
11位 青江三奈:「伊勢佐木町ブルース」
12位 津山洋子・大木英夫:「新宿そだち」
13位 森進一:「盛り場ブルース」
14位 パープルシャドウズ:「小さなスナック」
15位 中井昭・高橋勝とコロラティーノ:「思案橋ブルース」
16位 ザ・テンプターズ:「エメラルドの伝説」
17位 黒木憲:「霧にむせぶ夜」
18位 黛ジュン:「天使の誘惑」
19位 ザ・テンプターズ:「神様お願い!」
20位 黛ジュン:「夕月」
21位 ザ・タイガース:「君だけに愛を」
22位 森進一:「花と蝶」
23位 中村晃子:「虹色の湖」
24位 美川憲一:「釧路の夜」
25位 黒沢明とロス・プリモス:「雨の銀座」
26位 伊東ゆかり:「星を見ないで」
27位 西田佐知子:「涙のかわくまで」
28位 黒沢明とロス・プリモス:「ラブユー東京」
29位 ザ・ダーツ:「ケメ子の歌」
30位 黛ジュン:「乙女の祈り」
31位 森進一:「命かれても」
32位 黒沢明とロス・プリモス:「たそがれの銀座」
33位 布施明:「愛の園」
34位 モンキーズ:「デイドリーム」
35位 オックス:「ガール・フレンド
36位 ジャッキー吉川とブルーコメッツ:「こころの虹」
37位 ザ・フォーク・クルセダーズ:「悲しくてやりきれない」
38位 1910フルーツガム・カンパニー:「サイモンセッズ」
39位 ザ・ワイルドワンズ:「バラの恋人」
40位 北島三郎:「薩摩の女」
41位 佐良直美:「世界は二人のために」
42位 モンキーズ:「すてきなバレリ」
43位 ザ・タイガース:「廃虚の鳩」
44位 ロス・インディオス:「知りすぎたのね」
45位 オーティス・レディング:「ドック・オブ・ベイ」
46位 鶴岡雅義と東京ロマンチカ:「旅路のひとよ」
47位 ザ・テンプターズ:「おかあさん」
48位 ビートルズ:「ヘイ・ジュード」
49位 ザ・ゴールデン・カップス:「長い髪の少女」
50位 モンキーズ:「モンキーズのテーマ」
コメント