1972年(昭和47年)の演歌・歌謡曲

1972年:発展と試練、変わりゆく日本の姿

1972年、日本は高度経済成長の余韻に浸りながらも、社会、政治、文化の各面で大きな転換期を迎えた年でした。この年には経済の成長と共に、地方都市の発展、都市化の進展、そして消費文化の変容が一層顕著になりました。たとえば、3月に開業した山陽新幹線の新大阪駅から岡山駅間は、地域間の移動を迅速化し、経済と人々の交流を促進する役割を果たしました。同様に、トヨタが「カローラレビン」を、富士重工が「レックス」を、本田技研が「シビック」を発売するなど、家庭用自動車の普及が進み、車社会が日本のライフスタイルを大きく変えていきました。

また、文化面でも象徴的な出来事が多く見られました。2月に開催された札幌オリンピックは、日本初の冬季オリンピックとして全国的な関心を集めました。この大会は、ウィンタースポーツの普及と北海道地域の観光産業を後押しし、オリンピックの舞台に立つ日本のアスリートたちの姿は、国内において大いに誇りとされたでしょう。さらに、1972年には横井庄一という旧日本陸軍兵士がグアムで発見され、帰国しました。彼の「恥ずかしながら帰って参りました」という言葉は、その後流行語となり、戦後の日本人が抱くさまざまな感情や国民的な感覚に触れました。

一方で、1972年は社会問題や事件も数多く発生した年でした。例えば2月の「あさま山荘事件」は、日本赤軍による過激な行動が国内外に衝撃を与えた事件です。事件の様子は連日テレビで放映され、警察の対応を見守る視聴者が増えたことにより、日本のメディアと治安に関する意識が変わり、社会全体が安全や安心に対する価値を再確認する機会にもなりました。5月には千日デパート火災という大惨事が発生し、多くの犠牲者を出しました。この事件は、日本の防災意識や建築基準の見直しを促し、都市化が進む中での安全対策の必要性が問われた出来事です。

1972年の政治面では、沖縄の本土復帰が特に重要でした。5月15日、日本はアメリカから沖縄を正式に返還され、沖縄県が日本の一部として再び機能するようになりました。この復帰は、戦後日本の再統一を象徴する出来事であり、多くの国民が新たな一歩として歓迎しました。しかし一方で、沖縄の経済的な遅れや米軍基地の問題は解決されず、沖縄の人々が抱える複雑な感情と共に、日本本土との経済格差や基地問題が浮き彫りとなりました。

さらに、1972年には田中角栄が「日本列島改造論」を発表し、日本の地方開発を促進する政策を打ち出しました。この政策は、都市への過度な集中を避け、地方にも経済成長の恩恵を広げようとするもので、日本のインフラ発展に大きく寄与することとなりました。その一環として、地方都市への新幹線延伸や交通網の整備が進められ、日本全体の均衡ある発展が目指されました。

文化面では、1972年はまた、音楽やファッションでも新しいトレンドが生まれた年でした。この年には、エレキギターや洋楽の影響を受けた音楽がさらに多くの若者に受け入れられ、テレビやラジオからはさまざまな新しいスタイルの楽曲が流れました。青年漫画雑誌が登場し、若者向けの文化が台頭し始め、従来の文化と新しい文化が共存する状況が見られました。これにより、特に若い世代が自由な自己表現を求め、ファッションやライフスタイルに個性を求めるようになったのもこの時期の特徴です。

経済面でも、消費の多様化が進み、生活水準が向上するにつれて、商品選択肢が広がりを見せました。6月にサントリーが発売した500ミリリットル缶ビールは、当時の画期的な商品で、消費者に新たな選択肢を提供しました。また、食品や日用品、ファッションアイテムなども次々と多様化し、都市部を中心に購買意欲が活発化しました。企業もまた、消費者のニーズに応えるために新たな商品やサービスを開発するなど、競争が激化していきました。

このように1972年の日本は、戦後の急速な復興と経済成長を経て、より多様で成熟した社会へと進化していく過程にありました。

1972年の昭和歌謡:新旧スターが彩る多様な音楽の時代

1972年の日本の音楽シーンは、多様なジャンルが混在し、新旧の音楽スタイルが交錯する興味深い年でした。フォークソング・ブームが巻き起こり、よしだたくろうや井上陽水などが注目を集め、これまでのアイドルや歌謡曲の勢力に挑むような新たな流れが生まれていました。また、この年には西城秀樹や郷ひろみ、麻丘めぐみといった新御三家や、天地真理、南沙織、小柳ルミ子といった女性アイドルも大ブレイクを果たし、音楽業界を賑わせました。1972年の日本の音楽は、フォーク、歌謡曲、アイドル音楽などが多彩に絡み合い、リスナーの幅広い嗜好に応える形で進化を遂げていった年だったと言えます。

当時の音楽業界では、日本レコード大賞をちあきなおみの「喝采」が受賞し、この楽曲が一躍その年の代表曲となりました。切ないメロディとちあきなおみの力強い歌声が多くの人々の心に響き、1972年を象徴するヒット曲として今も語り継がれています。また、和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」が最優秀歌唱賞を受賞し、その圧倒的な歌唱力でリスナーを魅了しました。このように、歌謡曲の世界では実力派の歌手たちが次々と大賞を受賞し、そのパフォーマンスや楽曲が人々に深い感銘を与えました。

一方で、1972年は新しいスターの登場も際立った年でした。麻丘めぐみの「芽ばえ」が最優秀新人賞を獲得し、可憐なルックスと澄んだ歌声で大人気となりました。さらに、郷ひろみの「男の子女の子」や森昌子の「せんせい」も話題となり、彼らのデビューはその後のアイドル業界の在り方に大きな影響を与えました。特に郷ひろみは、元気で明るいキャラクターで幅広い層に受け入れられ、彼を皮切りにアイドルとしての地位が確立されていきました。彼らの登場は、従来の歌謡曲に新しい風を吹き込み、アイドル音楽の黎明期として位置づけられる年でもあります。

また、1972年の音楽シーンにおいては、日本のフォークとロックも一大ブームを迎えました。よしだたくろうや井上陽水が活躍し、フォークソングのシンプルながら力強いメッセージが若者の心を掴みました。この年のヒット曲「たどりついたらいつも雨降り」を手掛けたモップスは、フォークソング・ブームの中で生き残った数少ないGS(グループ・サウンズ)バンドとして話題を集めました。フォークやロックは、時代の空気を映し出す音楽ジャンルとして、特に若者層に強く支持されました。

さらに、この年の日本の音楽賞においても、さまざまなアーティストが受賞しました。五木ひろしの「夜汽車の女」や小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」も賞を獲得し、それぞれの曲がリスナーに強く印象づけられました。こうした受賞曲は、昭和歌謡の黄金時代を象徴する楽曲として今でも愛されています。そして、紅白歌合戦などの音楽イベントも盛大に開催され、年末の風物詩として国民的なイベントとなっていました。紅白歌合戦ではその年のヒット曲が披露され、多くの家庭がテレビに釘付けとなる中、日本の音楽シーンが一体となる瞬間を迎えていました。

1972年は、歌謡曲やアイドル音楽、フォークといったさまざまな音楽ジャンルが共存し、互いに影響し合う中で、日本の音楽シーンが成熟していった時期でもあります。音楽シーン全体において、アイドルが子供から大人まで幅広い層に受け入れられる一方、フォークソングやロックが若者の心の叫びを代弁し、時代の変化を映し出すものとして支持されました。この多様性は、その後の日本の音楽シーンにも影響を与え、ジャンルの垣根を越えた新しい音楽が生まれる素地となりました。

1972年(昭和47年)の名曲、ヒット曲リスト

以下に、1972年のオリコン総合シングル・チャート(邦楽・洋楽総合)を紹介します。

1位 宮史郎とぴんからトリオ:「女のみち」
2位 小柳ルミ子:「瀬戸の花嫁」
3位 ビリーバンバン:「さよならをするために」
4位 よしだたくろう:「旅の宿」
5位 平田隆夫とセルスターズ:「悪魔がにくい」
6位 天地真理:「ひとりじゃないの」
7位 小柳ルミ子:「京のにわか雨」
8位 ペドロ&カプリシャス:「別れの朝」
9位 天地真理:「ちいさな恋」
10位 青い三角定規:「太陽がくれた季節」
11位 石橋正次:「夜明けの停車場」
12位 欧陽菲菲:「雨の御堂筋」
13位 天地真理:「虹をわたって」
14位 よしだたくろう:「結婚しようよ」
15位 チェリッシュ:「ひまわりの小径」
16位 尾崎紀世彦:「愛する人はひとり」
17位 麻丘めぐみ:「芽ばえ」
18位 三善英史:「雨」
19位 森田健作:「友達よ泣くんじゃない」
20位 アンディ・ウィリアムス:「ゴッドファーザー 愛のテーマ」
21位 奥村チヨ:「終着駅」
22位 ニール・リード:「ママに捧げる詩」
23位 橋幸夫:「子連れ狼」
24位 ハニー・ナイツ:「ふりむかないで」
25位 ポップ・トップス:「マミー・ブルー」
26位 朱里エイコ:「北国行きで」
27位 沢田研二:「許されない愛」
28位 南沙織:「純潔」
29位 天地真理:「水色の恋」
30位 森昌子:「せんせい」
31位 欧陽菲菲:「雨のエアポート」
32位 山本リンダ:「どうにもとまらない」
33位 内山田洋とクール・ファイブ:「この愛に生きて」
34位 上條恒彦:「出発の歌」
35位 欧陽菲菲:「夜汽車」
36位 欧陽菲菲:「恋の追跡 (ラブ・チェイス)」
37位 あがた森魚:「赤色エレジー」
38位 ザ・ニュー・シーカーズ:「愛するハーモニー」
39位 石橋正次:「鉄橋をわたると涙がはじまる」
40位 五木ひろし:「待っている女」
41位 森進一:「波止場町」
42位 小柳ルミ子:「お祭りの夜」
43位 平田隆夫とセルスターズ:「ハチのムサシは死んだのさ」
44位 沢田研二:「あなただけでいい」
45位 小柳ルミ子:「わたしの城下町」
46位 上條恒彦:「だれかが風の中で」
47位 小柳ルミ子:「雪あかりの町」
48位 尾崎紀世彦:「こころの炎燃やしただけで/ゴッドファーザー〜愛のテーマ」
49位 カーペンターズ:「スーパースター」
50位 南沙織:「哀愁のページ」

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