1979年:高度成長から安定成長へ、社会・経済の転換点
1979年は、日本における社会、政治、文化の多様な変化が交差した年でした。高度経済成長が一段落し、安定成長期に移行するなかで、社会や文化の面で新たな潮流が生まれ、多くの人々が新しい生活様式や価値観を受け入れ始めました。以下では、政治や経済、社会問題、文化的な出来事を軸に、1979年を総括していきます。
この年の政治的な動きでは、国内外で多くの注目すべき出来事がありました。国内では、6月に元号法が公布され、「元号を定める政令」に基づいて日本の伝統文化を象徴する形で元号を正式に法制化しました。また、第5回先進国首脳会議(東京サミット)が6月28日に開催され、エネルギー危機や経済政策を中心に議論が行われました。国際的には、アメリカでジミー・カーター大統領がソビエト連邦との関係緊張のなかで外交努力を進め、冷戦時代の重要な一幕を形成しました。
経済の分野では、新技術の登場が人々の生活に変革をもたらしました。7月にソニーが携帯型ステレオプレーヤー「ウォークマン」を発売し、音楽を個人で楽しむという新しい文化が生まれました。また、5月にはNECがパーソナルコンピュータ「PC-8001」を発表し、コンピュータの普及が始まる契機となりました。一方、自動車業界では日産が「サニーカリフォルニア」や「ガゼール」、鈴木が「アルト」などを発売し、それぞれが市場に革新をもたらしました。
一方で、この年は社会問題や悲劇的な事件にも見舞われました。1月に発生した「三菱銀行人質事件」や5月の「長岡京ワラビ採り殺人事件」は、社会の安全と警備のあり方に大きな議論を巻き起こしました。また、7月には東名高速道路日本坂トンネルで多重衝突事故と車両火災が発生し、多くの犠牲者を出しました。この事故は、交通インフラの安全性に対する懸念を強調する契機となりました。
文化面では、音楽、テレビ、アニメといったエンターテインメント分野で重要な進展が見られました。この年、テレビアニメ『ドラえもん』が再スタートし、子どもたちの間で爆発的な人気を博しました。同時期に『機動戦士ガンダム』が放送を開始し、リアルロボットアニメの新時代を切り開きました。また、テレビ朝日でクイズ番組『象印クイズ ヒントでピント』がスタートし、視聴者参加型の新しいエンタメスタイルが浸透しました。
スポーツの分野では、プロ野球において江川卓投手の「江川事件」が話題となり、巨人へのトレードが大きな論争を巻き起こしました。また、高校野球では箕島高校が選抜高等学校野球大会で優勝し、その卓越したプレーが全国の注目を集めました。一方、競馬では福永洋一騎手がレース中に落馬し、騎手生命を絶たれるという悲劇的な出来事がありました。
さらに、この年はファッションや生活スタイルの変化が顕著に現れた年でもありました。カプセルホテルの登場や電子体温計の普及など、新たなサービスや製品が生活の利便性を向上させました。資生堂が発売した「ナツコ ビューティーパクト」や三洋電機の「おしゃれなテレコ」も話題を呼び、生活文化の多様性が広がりました。
1979年は、政治、経済、文化、そして社会全体において変化と進化が混在した年でした。高度成長期から次の時代へと移行しつつ、同時に技術革新や新しい価値観の台頭が見られたこの年の出来事は、日本が迎えた新たな局面を象徴しています。変化する社会の中で、多くの人々が新しい時代に向けた一歩を踏み出した年といえるでしょう。
1979年の昭和歌謡:ニューミュージックと演歌が彩った年
日本の音楽シーンにおいて1979年は、多くの転換点と記念すべき出来事が重なった年として語り継がれています。この年はディスコブームが世界的に最高潮を迎え、国内の音楽シーンにもその影響が色濃く反映されました。同時に、ニューミュージックと呼ばれる新しい音楽ジャンルが一層存在感を増し、ポップスや演歌のジャンルを超えた幅広い音楽が世間の注目を集めました。
ディスコサウンドが国内外で流行した中、日本ではゴダイゴがその代表的な成功を収めました。「ガンダーラ」「銀河鉄道999」など、立て続けにヒット曲を生み出し、独自のサウンドでリスナーを魅了しました。これらの楽曲は映画やテレビのテーマ曲としても使用され、日本の音楽シーンに新たな風を吹き込みました。また、サザンオールスターズの「いとしのエリー」は、その歌詞とメロディが幅広い世代に受け入れられ、ニューミュージックの代表曲として記憶されるようになりました。これらのアーティストたちは、1979年の音楽トレンドを象徴する存在となり、後の音楽シーンに多大な影響を与えました。
一方で、演歌や歌謡曲も根強い人気を誇りました。第21回日本レコード大賞ではジュディ・オングの「魅せられて」が受賞し、そのエキゾチックな世界観とドラマティックな表現が多くの人々の心を掴みました。また、小林幸子が「おもいで酒」で最優秀歌唱賞を受賞し、初出場となったNHK紅白歌合戦で涙をこらえながらの熱唱が多くの視聴者に感動を与えました。この年の紅白歌合戦は、30回目の記念大会ということもあり、美空ひばりや藤山一郎といったレジェンドたちが特別出演し、歴史を振り返る特別なステージが繰り広げられました。
この年の音楽シーンには、アーティストの多様性が光りました。石川さゆり、都はるみ、八代亜紀といった演歌界のスターたちがヒットを飛ばしつつ、若手アーティストも続々と台頭しました。特に、ニューミュージックの流れを汲む杏里や渡辺真知子の活躍は、若い世代の支持を集め、既存の音楽ジャンルに新たな息吹をもたらしました。これらのアーティストたちは、1979年を代表するヒット曲を生み出し、日本の音楽の可能性を広げる重要な役割を果たしました。
また、音楽イベントもこの年の重要な側面でした。第30回紅白歌合戦では、山口百恵の「しなやかに歌って」や西城秀樹の「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」といった楽曲が披露され、世代を超えた名演技が話題を呼びました。この年を象徴するテーマの一つとして、伝統と新しさの共存が挙げられます。これまでの音楽スタイルを大切にしながらも、新しい試みを恐れないアーティストたちの姿勢が、多くのリスナーに感動を与えました。
さらに、1979年は音楽業界においても変革の兆しが見られた年でした。オリコンが創刊した『オリ★スタ』は、音楽チャートの重要性を一層高め、リスナーが音楽を消費する方法に影響を与えました。また、社会背景としては、都市化が進む中で、地方から上京して成功を収めるアーティストも目立つようになり、音楽が人々の生活の中でますます重要な役割を果たすようになりました。
1979年の音楽は、後の音楽シーンに多くの影響を及ぼしました。ディスコやニューミュージックの台頭は、1980年代のポップスの土台を築き、演歌や歌謡曲の人気は、音楽の多様性を保持する上で欠かせない要素として続いていきました。この年に生まれた名曲の数々は、時代を超えて愛されるクラシックとして今なお多くの人々に聴かれ続けています。1979年の音楽は、まさにジャンルや世代を超えた魅力と革新の象徴といえるでしょう。
1979年(昭和54年)の名曲、ヒット曲リスト
以下に、1979年のオリコン総合シングル・チャート(邦楽・洋楽総合)を紹介します。
1位 渥美二郎:「夢追い酒」
2位 ジュディ・オング:「魅せられて」
3位 小林幸子:「おもいで酒」
4位 さだまさし:「関白宣言」
5位 千昌夫:「北国の春」
6位 ゴダイゴ:「ガンダーラ」
7位 西城秀樹:「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」
8位 アリス:「チャンピオン」
9位 牧村三枝子:「みちづれ」
10位 ピンク・レディー:「カメレオン・アーミー」
11位 サザンオールスターズ:「いとしのエリー」
12位 水谷豊:「カリフォルニア・コネクション」
13位 甲斐バンド:「HERO(ヒーローになる時、それは今)」
14位 ゴダイゴ:「銀河鉄道999 (THE GALAXY EXPRESS 999)」
15位 岸田智史:「きみの朝」
16位 金田たつえ:「花街の母」
17位 ゴダイゴ:「MONKEY MAGIC」
18位 桑名正博:「セクシャルバイオレットNo.1」
19位 ゴダイゴ:「ビューティフル・ネーム」
20位 山口百恵:「いい日旅立ち」
21位 サーカス:「アメリカン・フィーリング」
22位 さとう宗幸:「青葉城恋唄」
23位 円広志:「夢想花」
24位 松山千春:「季節の中で」
25位 ツイスト:「燃えろいい女」
26位 沢田研二:「カサブランカ・ダンディ」
27位 村木賢吉:「おやじの海」
28位 松山千春:「窓」
29位 西城秀樹:「ホップ・ステップ・ジャンプ」
30位 南こうせつ:「夢一夜」
31位 レイフ・ギャレット:「ダンスに夢中」
32位 八神純子:「みずいろの雨」
33位 松坂慶子:「愛の水中花」
34位 山口百恵:「美・サイレント」
35位 チューリップ:「虹とスニーカーの頃」
36位 山口百恵:「愛の嵐」
37位 ツイスト:「性」
38位 さだまさし:「親父の一番長い日」
39位 アリス:「夢去りし街角」
40位 布施明:「君は薔薇より美しい」
41位 さだまさし:「天までとどけ」
42位 敏いとうとハッピー&ブルー:「よせばいいのに」
43位 ヴィレッジ・ピープル:「Y.M.C.A.」
44位 ピンク・レディー:「ピンク・タイフーン (In The Navy)」
45位 柳ジョージ&レイニーウッド:「微笑の法則」
46位 松山千春:「夜明け」
47位 沢田研二:「OH! ギャル」
48位 ピンク・レディー:「ジパング」
49位 サザンオールスターズ:「気分しだいで責めないで」
50位 西城秀樹:「勇気があれば」
オリコン総合アルバム・チャート(邦楽・洋楽総合)
1位 ゴダイゴ:『西遊記』
2位 さだまさし:『夢供養』
3位 サザンオールスターズ:『10ナンバーズ・からっと』
4位 岸田智史:『モーニング』
5位 ABBA:『ヴーレー・ヴー』
6位 アリス:『ALICE VII』
7位 アリス:『栄光への脱出 〜武道館ライブ』
8位 柳ジョージ&レイニーウッド:『YOKOHAMA』
9位 ABBA:『アライバル』
10位 松山千春:『歩き続ける時』
11位 ロッド・スチュワート:『スーパースターはブロンドがお好き』
12位 松山千春:『空を飛ぶ鳥のように 野を駈ける風のように』
13位 サウンドトラック:『交響詩銀河鉄道999』
14位 ビリー・ジョエル:『ニューヨーク52番街』
15位 ツイスト:『ツイストII』
16位 サウンドトラック:『グリース』
17位 八神純子:『素顔の私』
18位 南こうせつ:『こんな静かな夜』
19位 松山千春:『君のために作った歌』
20位 ABBA:『グレイテスト・ヒッツ24』
21位 中島みゆき:『親愛なる者へ』
22位 ゴダイゴ:『CMソング・グラフィティ』
23位 甲斐バンド:『甲斐バンド・ストーリー』
24位 谷村新司:『喝采』
25位 ビージーズ:『失われた愛の世界』
26位 渡辺貞夫:『モーニング・アイランド』
27位 サーカス:『ニュー・ホライズン』
28位 八神純子:『思い出は美しすぎて』
29位 スーパートランプ:『ブレックファスト・イン・アメリカ』
30位 矢沢永吉:『Kiss Me Please』
31位 ピンク・レディー:『ベスト・ヒット・アルバム』
32位 竹内まりや:『UNIVERSITY STREET』
33位 山口百恵:『曼珠沙華』
34位 ゴダイゴ:『OUR DECADE』
35位 松任谷由実:『OLIVE』
36位 庄野真代:『マスカレード』
37位 柳ジョージ&レイニーウッド:『Weeping in the rain』
38位 ドナ・サマー:『華麗なる誘惑』
39位 さだまさし:『私花集』
40位 アース・ウィンド・アンド・ファイアー:『ベスト・オブ・EW & F VOL.1』
41位 イーグルス:『ロング・ラン』
42位 アース・ウィンド・アンド・ファイアー:『黙示録』
43位 サウンドトラック:『熱中時代』
44位 ネイティブ・サン:『ネイティブ・サン』
45位 イルカ:『いつか冷たい雨が』
46位 クイーン:『ジャズ』
47位 レッド・ツェッペリン:『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』
48位 オフコース:『Three and Two』
49位 渡辺貞夫:『カリフォルニア・シャワー』
50位 五輪真弓:『残り火』
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