1981年:日本社会が見せた文化と経済の転換期
1981年は、日本社会にとって多くの変化と出来事が交錯した年でした。戦後の高度経済成長期を経て、社会の成熟が進む中で、文化的な多様性や経済的発展が顕著に見られ、同時に新たな課題も浮き彫りとなりました。この年を特徴づけるのは、政治、社会、経済、文化など、さまざまな分野における革新と試練です。
政治面では、国内外での政策が注目を集めました。国内では、土光敏夫が主導する第2次臨時行政調査会が発足し、行政改革が大きな議題となりました。この取り組みは、当時の日本経済の課題を解決するための重要なステップとして認識されました。一方、国際的には、教皇ヨハネ・パウロ2世の来日が象徴的な出来事でした。カトリック教会のトップによる日本訪問は、宗教的、文化的な交流を深めるきっかけとなり、世界とのつながりを改めて意識させるものでした。
社会的には、校内暴力やつっぱり文化といった問題が深刻化する一方で、若者文化が一世を風靡しました。「クリスタル族」や「カラス族」といった新たな若者のライフスタイルが話題となり、マリンスタイルや古着ルックなどのファッションも人気を集めました。また、流行語として「えぐい」やアニメ『Dr.スランプ アラレちゃん』の「んちゃ」などが広がり、言葉を通じて社会の雰囲気を映し出していました。貸しレコード店が大流行したことも特筆すべき点であり、音楽を手軽に楽しむ文化が普及していく様子が伺えます。
文化面では、『窓ぎわのトットちゃん』が社会現象を巻き起こしました。この黒柳徹子の自伝的小説は、教育の在り方を考えさせる内容で、教科書にも採用されるほど影響力を持ちました。同時に、タレント本ブームの火付け役ともなり、出版業界にも大きなインパクトを与えました。また、赤城乳業の「ガリガリ君」やロッテの「雪見だいふく」といった商品が発売され、長年にわたり愛される存在となったことも1981年の消費文化を象徴しています。
一方で、経済的には、ポートピア’81が神戸市で開催され、地域振興と経済発展の象徴となりました。このイベントは日本初の新交通システム「ポートライナー」と共に注目を浴び、未来志向の都市づくりの一端を担いました。トヨタの高級スポーツクーペ「ソアラ」の発売も、技術革新と経済成長の象徴として位置づけられます。
スポーツでは、高校野球のPL学園が選抜大会で初優勝を果たし、その後の黄金期の幕開けを告げる出来事となりました。また、ピンク・レディーの解散が音楽界における大きなニュースとなり、時代の移り変わりを感じさせました。映画やアニメも盛況で、『Dr.スランプ アラレちゃん』のような作品が家庭の茶の間を賑わせ、エンターテインメントの多様性を示しました。
しかし、この年は暗い影を落とす事件も多く発生しました。名古屋女子大生誘拐殺人事件や佐賀替え玉保険金殺人事件、パリ人肉事件などの重大事件が世間を震撼させました。また、福井の原発放射能漏れ事故やアメリカ海軍原子力潜水艦の当て逃げ事件など、社会的な課題も顕在化しました。これらの出来事は、安全性や倫理観についての議論を呼び起こし、現代社会の複雑さを浮き彫りにしました。
こうした多様なトピックが交錯する1981年は、日本社会が変革の波の中にありながらも、その根底にある文化的な豊かさや経済的な発展を感じさせる年でした。過去の成果を引き継ぎつつ、新たな課題と向き合い、未来に向けた一歩を踏み出す、そんな節目の年だったと言えるでしょう。
1981年の昭和歌謡:アイドル解散と新たなスターの誕生
1981年、日本の音楽シーンは新しいトレンドと大きな変化を迎えた年となりました。この年は、音楽業界における新たなプレイヤーの登場、ジャンルの多様化、そして時代を象徴する名曲の数々がリスナーの心に深い印象を残しました。また、音楽イベントも数多く開催され、それぞれが当時の音楽文化に重要な役割を果たしました。
1月には、日本テレビをはじめとする出資で「バップ(VAP)」が設立され、レコードや映像ソフトの製作・販売が本格化しました。これは、音楽と映像が密接に結びつく先駆けとなり、後にミュージックビデオ文化を支える一端を担うことになります。さらに3月には、渋谷区にライブハウス「shibuya eggman」がオープンし、桑田佳祐率いる「桑田バンド」や山下久美子がこけら落とし公演を行いました。このライブハウスは、後のアーティストたちの登竜門となり、音楽シーンの新たな才能を輩出する場として知られるようになります。
同じく3月には、日本テレビの歌謡番組『NTV紅白歌のベストテン』が11年半の歴史に幕を下ろし、翌週から『ザ・トップテン』がスタートしました。この新番組はリアルタイムでの視聴者の関心を反映し、ランキング形式で最新ヒットを紹介するという新たな試みで視聴者を魅了しました。これにより、音楽がよりテレビを通じて日常生活に浸透し、アーティストとリスナーの距離がさらに縮まるきっかけとなりました。
一方、ピンク・レディーが3月末で解散したことは、多くのファンに衝撃を与えました。彼女たちは1970年代後半からのアイドルブームをけん引し、数多くのヒット曲を世に送り出しましたが、時代の移り変わりの中での解散は、日本のアイドル文化に一つの区切りをもたらしました。同様に11月にはアリスが活動を停止し、彼らの音楽もまた、多くのファンに惜しまれました。
1981年の音楽業界で最も象徴的な出来事の一つは、寺尾聰の「ルビーの指環」がTBS系『ザ・ベストテン』で12週連続1位を獲得したことです。この楽曲は、寺尾の低音ボイスと独特のメロディーラインで大人の恋愛感情を描写し、多くの支持を得ました。この記録は番組終了まで破られることはなく、寺尾自身もこの年の日本レコード大賞を受賞するという快挙を成し遂げました。この曲は、歌詞の文学的な深みとムード歌謡的な要素を兼ね備え、後のJ-POPに影響を与えたとされています。
この年には近藤真彦が「ギンギラギンにさりげなく」でデビューし、アイドル文化に新風を吹き込みました。彼の新人らしからぬ歌唱力とスター性は、若年層を中心に圧倒的な支持を受け、最優秀新人賞を獲得しました。同時に、石野真子が芸能界を一時引退するなど、アイドルシーンの世代交代も進行していました。
また、12月のNHK紅白歌合戦では、黒柳徹子と山川静夫が司会を務め、時代を象徴するアーティストたちが集結しました。特に、紅白での演出は歌手の個性を際立たせるものであり、視聴者にとって特別な夜となりました。一方、日本レコード大賞では寺尾聰が大賞を受賞し、岩崎宏美が最優秀歌唱賞を受賞するなど、質の高い楽曲が評価される年でもありました。
この年の音楽シーンは、ジャンルの多様化が進み、ポップス、演歌、ニューミュージックといった幅広いスタイルが共存する時代でした。さらに、海外の音楽文化の影響も徐々に強まり、8月にはアメリカで音楽専門チャンネル『MTV』が発足し、音楽と映像の融合が新たなエンターテインメントの形を模索する時代の到来を告げました。
こうした動きの中で、1981年の音楽は日本の音楽文化に新たな基盤を築きました。翌年以降、アイドルやニューミュージックがさらに進化し、多くの才能が花開いていきます。1981年は、音楽シーンの変革期として、後の音楽業界に大きな影響を与えた重要な年だったといえるでしょう。
1981年(昭和56年)の名曲、ヒット曲リスト
以下に、1981年のオリコン総合シングル・チャート(邦楽・洋楽総合)を紹介します。
1位 寺尾聰:「ルビーの指環」
2位 竜鉄也:「奥飛騨慕情」
3位 近藤真彦:「スニーカーぶる〜す」
4位 イモ欽トリオ:「ハイスクールララバイ」
5位 松山千春:「長い夜」
6位 都はるみ:「大阪しぐれ」
7位 シャネルズ:「街角トワイライト」
8位 五輪真弓:「恋人よ」
9位 松田聖子:「チェリーブラッサム」
10位 松任谷由実:「守ってあげたい」
11位 近藤真彦:「ブルージーンズ メモリー」
12位 田原俊彦:「恋=Do!」
13位 雅夢:「愛はかげろう」
14位 松田聖子:「夏の扉」
15位 T.C.R.横浜銀蝿R.S.:「ツッパリHigh School Rock’n Roll (登校編)」
16位 山本譲二:「みちのくひとり旅」
17位 松村和子:「帰ってこいよ」
18位 堀江淳:「メモリーグラス」
19位 寺尾聰:「SHADOW CITY」
20位 近藤真彦:「ヨコハマ・チーク」
21位 近藤真彦:「ギンギラギンにさりげなく」
22位 石原裕次郎:「ブランデーグラス」
23位 松田聖子:「白いパラソル」
24位 田原俊彦:「ブギ浮ぎI LOVE YOU」
25位 西田敏行:「もしもピアノが弾けたなら」
26位 チャゲ&飛鳥:「万里の河」
27位 杉村尚美:「サンセット・メモリー」
28位 ザ・ぼんち:「恋のぼんちシート」
29位 シャネルズ:「ハリケーン」
30位 五十嵐浩晃:「ペガサスの朝」
31位 川中美幸:「ふたり酒」
32位 ザ・ヴィーナス:「キッスは目にして!」
33位 石川ひとみ:「まちぶせ」
34位 松田聖子:「風立ちぬ」
35位 田原俊彦:「悲しみ2(TOO)ヤング」
36位 中島みゆき:「ひとり上手」
37位 クリエーション:「ロンリー・ハート (Lonely Hearts)」
38位 矢野顕子:「春咲小紅」
39位 田原俊彦:「キミに決定!」
40位 エマニエル:「シティ・コネクション」
41位 矢沢永吉:「抱かれたい、もう一度 -LOVE THAT WAS LOST-」
42位 石川優子:「シンデレラ サマー」
43位 伊藤つかさ:「少女人形」
44位 T.C.R.横浜銀蝿R.S.:「羯徒毘ロ薫’狼琉」
45位 岩崎宏美:「すみれ色の涙」
46位 クインシー・ジョーンズ:「愛のコリーダ」
47位 寺尾聰:「出航 SASURAI」
48位 田原俊彦:「グッドラックLOVE」
49位 南佳孝:「スローなブギにしてくれ (I want you)」
50位 山口百恵:「一恵」
オリコン総合アルバム・チャート(邦楽・洋楽総合)
1位 寺尾聰:『Reflections』
2位 大滝詠一:『A LONG VACATION』
3位 アラベスク:『グレイテスト・ヒッツ』
4位 松山千春:『時代をこえて』
5位 T.C.R.横浜銀蝿R.S.:『ぶっちぎりII』
6位 オフコース:『We are』
7位 中島みゆき:『臨月』
8位 ノーランズ:『恋のハッピー・デート』
9位 ノーランズ:『セクシー・ミュージック』
10位 五輪真弓:『恋人よ』
11位 シャネルズ:『Heart & Soul』
12位 松山千春:『木枯しに抱かれて』
13位 サザンオールスターズ:『ステレオ太陽族』
14位 シーナ・イーストン:『モダン・ガール』
15位 オフコース:『SELECTION 1978-81』
16位 リチャード・クレイダーマン:『愛のコンチェルト』
17位 松田聖子:『North Wind』
18位 松田聖子:『Silhouette 〜シルエット〜』
19位 阿川泰子:『SUNGLOW』
20位 さだまさし:『うつろひ』
21位 T.C.R.横浜銀蝿R.S.:『仏恥義理蹉蝿怒』
22位 アラベスク:『ビリーズ・バーベキュー』
23位 シャネルズ:『LIVE AT WHISKY A GO GO』
24位 クインシー・ジョーンズ:『愛のコリーダ』
25位 T.C.R.横浜銀蝿R.S.:『ぶっちぎり』
26位 八神純子:『JUNKO THE BEST』
27位 原由子:『はらゆうこが語るひととき』
28位 イエロー・マジック・オーケストラ:『BGM』
29位 ジョン・レノン&オノ・ヨーコ:『ダブル・ファンタジー』
30位 田原俊彦:『TOSHI’81』
31位 近藤真彦:『Thank 愛 You』
32位 高中正義:『虹伝説 THE RAINBOW GOBLINS』
33位 伊藤つかさ:『つかさ』
34位 竜鉄也:『奥飛騨慕情』
35位 アリス:『ALICE IX 謀反』
36位 チャゲ&飛鳥:『熱風』
37位 ザ・ヴィーナス:『ラブ・ポーション No.1』
38位 松田聖子:『風立ちぬ』
39位 渡辺貞夫:『オレンジ・エクスプレス』
40位 松任谷由実:『SURF&SNOW』
41位 ABBA:『スーパー・トゥルーパー』
42位 五十嵐浩晃:『ナチュラル・ロード』
43位 アラベスク:『さわやかメイク・ラブ』
44位 谷村新司:『海を渡る蝶』
45位 松任谷由実:『昨晩お会いしましょう』
46位 南佳孝:『シルク・スクリーン』
47位 オムニバス:『SNAKEMAN SHOW』
48位 サウンドトラック:『ブルージーンズ メモリー』
49位 喜多郎:『シルクロードII』
50位 阿川泰子:『JOURNEY』
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