1985年(昭和60年)の演歌・歌謡曲

1985年:円高とバブルの影、日本の分岐点

1985年の日本は、経済、政治、社会、文化のあらゆる面で大きな変化を迎えた年でした。バブル経済の前夜ともいえるこの年、日本の経済は成長を続ける一方で、国際的な圧力や社会問題への対応に追われる場面も多かったです。

経済の面では、円高の進行と産業の変革が進んだ年でした。9月22日にニューヨークで行われたプラザ合意により、日本円は急速に高騰し、円高不況の懸念が広がりました。この影響を受けて輸出産業は苦境に立たされる一方で、日本国内ではバブル景気の種がまかれ始めました。また、NTTの民営化が決定し、通信業界の自由化が進むこととなりました。これにより、日本の通信産業は大きな変革を迎え、後のインターネット時代への基盤が築かれました。

政治の面では、中曽根康弘首相が主導する改革が進められました。特に国鉄の民営化が正式に決定されたことで、日本の鉄道業界の大きな転換点となりました。また、日航機墜落事故や豊田商事事件といった重大事件に対応する中で、政府の危機管理能力が問われる場面も多かったです。一方、田中角栄元首相が脳梗塞で倒れ、長年の「角栄政治」に終止符が打たれることとなりました。

社会の面では、大きな事件が相次ぎました。8月12日に発生した日本航空123便墜落事故は、520人もの命を奪い、日本航空史上最悪の惨事となりました。この事故を受け、航空業界の安全対策が見直される契機となりました。また、6月には豊田商事の会長がテレビカメラの前で刺殺されるという衝撃的な事件が発生し、投資詐欺に対する社会の関心が高まりました。さらに、女子に対するあらゆる形態の差別撤廃条約(CEDAW)が日本で批准され、男女平等に向けた法整備が進められました。

文化の面では、新たなトレンドが生まれた年でもありました。ファッションでは、「DCブランド」ブームが続き、若者の間で高級ブランドへの関心が高まりました。音楽では、おニャン子クラブが『夕やけニャンニャン』から誕生し、アイドルブームの新たな波を巻き起こしました。また、中森明菜やチェッカーズがヒットを飛ばし、J-POPの時代が本格化していきました。さらに、ファミコン用ソフト『スーパーマリオブラザーズ』が発売され、空前の大ヒットを記録し、テレビゲーム文化が日本全国に定着するきっかけとなりました。

スポーツの世界では、阪神タイガースが21年ぶりにセ・リーグ優勝を果たし、さらに日本シリーズで西武ライオンズを破り球団史上初の日本一に輝きました。この優勝に熱狂したファンが道頓堀川に飛び込む「トラキチ騒動」が社会現象となり、日本のプロ野球界における一大イベントとなりました。また、高校野球ではPL学園が清原和博と桑田真澄の「KKコンビ」を擁し、圧倒的な強さで夏の甲子園を制しました。

映画界では、黒澤明監督の『乱』が公開され、国際的な評価を得ました。アニメでは『機動戦士Ζガンダム』や『タッチ』が放映開始となり、後の日本アニメ文化の発展につながる作品が次々と生み出されました。

このように、1985年は経済成長と社会の変革が交錯する激動の一年でした。円高の影響や通信の自由化、国鉄の民営化など、後の日本の経済構造を大きく変える決定がなされ、一方で文化やスポーツでは新たなムーブメントが生まれました。この年に生まれた変化は、その後の日本社会に長く影響を与え続けることとなりました。

1985年の昭和歌謡:アイドルとロックが彩った音楽シーン

1985年の日本の音楽シーンは、大きな変化と多様なスタイルの台頭が見られた年でした。アイドルブームが続く一方で、ロックバンドの活躍や海外音楽の影響がより強くなり、音楽業界全体が新しい潮流を取り入れていました。

この年にヒットした楽曲の中でも、中森明菜の「ミ・アモーレ」は特に注目を集め、第27回日本レコード大賞を受賞しました。彼女の妖艶なパフォーマンスとエキゾチックな楽曲が話題となり、時代を象徴する一曲となりました。また、安全地帯の「悲しみにさよなら」、チェッカーズの「ジュリアに傷心」、C-C-Bの「Lucky Chanceをもう一度」など、バンドブームを象徴するヒット曲も数多く生まれました。アイドルとしては中山美穂が「C」で最優秀新人賞を獲得し、フレッシュな存在感を放ちました。

1985年はまた、日本のロックシーンにとって重要な年でもありました。LOUDNESSがアメリカ進出を果たし、日本のロックバンドとしては初めて本格的に海外市場に挑戦しました。また、甲本ヒロトと真島昌利を中心にTHE BLUE HEARTSが結成され、後のパンクロックブームの礎を築くことになりました。サザンオールスターズはオリジナルアルバム『KAMAKURA』を発表し、その後グループ活動を休止するという大きな転機を迎えました。

海外の音楽シーンからの影響も強く受けた年で、特にUSAフォー・アフリカの「ウィ・アー・ザ・ワールド」は日本でも大ヒットしました。さらに、7月にはロンドンとフィラデルフィアで『ライヴエイド』が開催され、世界中のアーティストが一堂に会した歴史的なイベントとなりました。この影響は日本の音楽業界にも波及し、チャリティーイベントの開催やアーティストの社会的活動への関心が高まりました。

ライブイベントにおいても、吉田拓郎がつま恋でのオールナイトライブ『ONE LAST NIGHT in つま恋』を開催し、かぐや姫や猫などのフォークグループが再結成されました。このライブを最後に、吉田拓郎は一時的にライブ活動を休止することになり、多くのファンにとって記憶に残る出来事となりました。

また、年末の音楽イベントとして欠かせないのが、第36回NHK紅白歌合戦でした。この年の紅白は「フレッシュ紅白」をテーマに掲げ、原則としてその年に発売された楽曲を中心に構成されました。その結果、安全地帯、原田知世、吉川晃司、C-C-Bといった若手アーティストが初出場を果たし、新しい風を吹き込むことになりました。演歌・歌謡曲の枠も守られつつ、若者向けのアイドルやバンドの出場枠が増えたことは、紅白の方向性が変わりつつあることを示唆していました。

1985年の音楽シーンは、アイドル・ロック・演歌といった多様なジャンルが共存し、さらに海外のトレンドを取り入れることで進化を遂げました。この年に生まれた楽曲やアーティストの多くが後の音楽シーンにも影響を与え、特にバンドブームの流れは1980年代後半から1990年代にかけてさらに加速していくことになります。また、チャリティーイベントの意義が広く認識されるようになったことも、日本の音楽業界にとって重要な変化の一つでした。1985年は、音楽の多様性と新しい可能性を示した、エキサイティングな一年だったと言えるでしょう。

1985年(昭和60年)の名曲、ヒット曲リスト

以下に、1985年のオリコン総合シングル・チャート(邦楽・洋楽総合)を紹介します。

1位 チェッカーズ:「ジュリアに傷心」
2位 中森明菜:「ミ・アモーレ〔Meu amor é・・・〕」
3位 小林明子:「恋におちて -Fall in love-」
4位 C-C-B:「Romanticが止まらない」
5位 チェッカーズ:「あの娘とスキャンダル」
6位 中森明菜:「飾りじゃないのよ涙は」
7位 中森明菜:「SAND BEIGE -砂漠へ-」
8位 チェッカーズ:「俺たちのロカビリーナイト」
9位 安全地帯:「悲しみにさよなら」
10位 松田聖子:「天使のウィンク」
11位 菊池桃子:「卒業-GRADUATION-」
12位 薬師丸ひろ子:「あなたを・もっと・知りたくて」
13位 中村あゆみ:「翼の折れたエンジェル」
14位 小泉今日子:「The Stardust Memory」
15位 杉山清貴&オメガトライブ:「ふたりの夏物語 -NEVER ENDING SUMMER-」
16位 松任谷由実・小田和正・財津和夫:「今だから」
17位 サザンオールスターズ:「Bye Bye My Love (U are the one)」
18位 TOM★CAT:「ふられ気分でRock’n’ Roll」
19位 松田聖子:「ボーイの季節」
20位 中森明菜:「赤い鳥逃げた」
21位 吉幾三:「俺ら東京さ行ぐだ」
22位 菊池桃子:「BOYのテーマ」
23位 安全地帯:「恋の予感」
24位 安全地帯:「熱視線」
25位 USA for AFRICA:「ウィ・アー・ザ・ワールド」
26位 吉川晃司:「You Gotta Chance 〜ダンスで夏を抱きしめて〜」
27位 都はるみ:「夫婦坂」
28位 ALFEE:「シンデレラは眠れない」
29位 安全地帯:「碧い瞳のエリス」
30位 チェッカーズ:「HEART OF RAINBOW 〜愛の虹を渡って〜/ブルー・パシフィック」
31位 井上陽水:「いっそセレナーデ」
32位 五木ひろし:「そして…めぐり逢い」
33位 小泉今日子:「常夏娘」
34位 斉藤由貴:「卒業」
35位 中森明菜:「SOLITUDE」
36位 吉川晃司:「にくまれそうなNEWフェイス」
37位 大沢誉志幸:「そして僕は途方に暮れる」
38位 おニャン子クラブ:「セーラー服を脱がさないで」
39位 岩崎良美:「タッチ」
40位 菊池桃子:「もう逢えないかもしれない」
41位 アン・ルイス:「六本木心中」
42位 リマール:「ネバーエンディング・ストーリーのテーマ」
43位 サザンオールスターズ:「メロディ (Melody)」
44位 チェッカーズ:「神様ヘルプ!」
45位 風見慎吾:「涙のtake a chance」
46位 杉山清貴&オメガトライブ:「サイレンスがいっぱい」
47位 テリー・デサリオ:「オーバーナイト・サクセス」
48位 芦屋雁之助:「娘よ」
49位 菊池桃子:「雪にかいたLOVE LETTER」
50位 C-C-B:「Lucky Chanceをもう一度」

オリコン総合アルバム・チャート(邦楽・洋楽総合)

1位 井上陽水:『9.5カラット』
2位 ワム!:『メイク・イット・ビッグ』
3位 安全地帯:『安全地帯III〜抱きしめたい』
4位 サザンオールスターズ:『KAMAKURA』
5位 チェッカーズ:『もっと!チェッカーズ』
6位 松任谷由実:『NO SIDE』
7位 中森明菜:『D404ME』
8位 マドンナ:『ライク・ア・ヴァージン』
9位 中森明菜:『BITTER AND SWEET』
10位 チェッカーズ:『毎日!!チェッカーズ』
11位 松田聖子:『Windy Shadow』
12位 松田聖子:『The 9th Wave』
13位 サウンドトラック:『TAN TAN たぬき』
14位 杉山清貴&オメガトライブ:『ANOTHER SUMMER』
15位 USA for AFRICA:『ウィ・アー・ザ・ワールド』
16位 中村あゆみ:『Be True』
17位 小泉今日子:『Celebration』
18位 中島みゆき:『御色なおし』
19位 杉山清貴&オメガトライブ:『NEVER ENDING SUMMER』
20位 吉川晃司:『INNOCENT SKY』
21位 小泉今日子:『Today’s Girl』
22位 大沢誉志幸:『CONFUSION』
23位 菊池桃子:『トロピック・オブ・カプリコーン』
24位 ビリー・ジョエル:『ビリー・ザ・ベスト』
25位 安全地帯:『ENDLESS』
26位 SEIKO:『SOUND OF MY HEART』
27位 薬師丸ひろ子:『夢十話』
28位 稲垣潤一:『NO STRINGS』
29位 斉藤由貴:『AXIA』
30位 矢沢永吉:『YOKOHAMA二十才まえ』
31位 中森明菜:『SILENT LOVE』
32位 高中正義:『TRAUMATIC 極東探偵団』
33位 尾崎豊:『回帰線』
34位 大沢誉志幸:『in・Fin・ity』
35位 オフコース:『Back Streets of Tokyo』
36位 ALFEE:『FOR YOUR LOVE』
37位 フィル・コリンズ:『フィル・コリンズIII』
38位 松田聖子:『Seiko-Train』
39位 中森明菜:『POSSIBILITY』
40位 HOUND DOG:『SPIRITS!』
41位 おニャン子クラブ:『KICK OFF』
42位 レベッカ:『WILD & HONEY』
43位 稲垣潤一:『COMPLETE』
44位 サウンドトラック:『ゴーストバスターズ』
45位 レベッカ:『REBECCA IV 〜Maybe Tomorrow〜』
46位 小泉今日子:『Flapper』
47位 山下達郎:『BIG WAVE』
48位 原田知世:『撫子純情』
49位 スティーヴィー・ワンダー:『ウーマン・イン・レッド』
50位 ティアーズ・フォー・フィアーズ:『シャウト』

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