1986年(昭和61年)の演歌・歌謡曲

1986年:政治・経済・文化が大きく変わった激動の一年

1986年の日本は、戦後の高度経済成長を背景に、いわゆるバブル景気の幕開けとなり、多方面で活発な動きが見られた年でした。経済面では、企業のブランド戦略が本格化し、各社が新たなCI(コーポレートアイデンティティ)を導入するなど、マーケティング戦略の刷新が進められました。朝日麦酒が「ニューセンチュリー計画」を発表したほか、シチズン時計や森永製菓、富士写真フイルムなどが次々と新製品を投入し、消費者の購買意欲を刺激しました。また、トヨタ自動車が「スープラ」を、日産自動車が「RZ-1」を、そして本田技研工業が「NSR250R」や「インテグラ」といった自動車を発売したことで、自動車産業における技術革新とデザインの競争が激化し、景気の好調さを象徴する出来事となりました。さらに、エニックスがファミコン用ソフト『ドラゴンクエスト』を発売したことは、ゲーム業界に大きな社会現象をもたらし、その後のリメイクや続編の制作につながるなど、エンターテインメント分野の発展に大きく寄与しました。

政治・行政の面では、男女雇用機会均等法が施行されるなど、労働環境の改善やジェンダー平等に向けた取り組みが進められました。一方で、衆議院解散(いわゆる「死んだふり解散」)や内閣改造など、政界では波乱が続きました。特に、内閣告示による現代仮名遣いの公布や、第3次中曽根内閣の発足など、政治の方向性が徐々に変化していく様子が見て取れ、国際舞台においてもソ連外相の来日や英チャールズ皇太子とダイアナ妃の来日といった動きが、日本の外交政策や国際関係に影響を及ぼしました。第12回先進国首脳会議(東京サミット)では、テロ問題や経済政策について厳しい議論が交わされ、国際的な信頼回復を目指す努力がなされました。

社会面では、1986年は新たなトレンドが数多く生まれた年でもありました。春にはハレー彗星が1910年以来76年ぶりに地球に接近し、多くの人々の話題となりました。また、イギリスのダイアナ妃のファッションに影響を受けた「ダイアナファッション」が流行し、ボディコンというスタイルが登場するなど、ファッション界にも革新の兆しが見られました。さらに、おニャン子クラブやキャッツ、ホワッツマイケルといったアイドルグループの人気により、空前のネコブームが到来し、若者文化の象徴となりました。一方で、悲しい事件も社会に衝撃を与えました。中野富士見中学いじめ自殺事件では、学級担任がいじめに加担し、いわゆる「葬式ごっこ」が行われたことが明るみに出ると、メディアは大々的に報じ、教育現場や社会全体にいじめ問題への対策を促すきっかけとなりました。

文化・エンターテインメントの分野においては、映画やアニメ、音楽といったコンテンツが国内外で大きな注目を浴びました。映画界では、2月に『コマンドー』、3月に『北斗の拳』、6月に『ロッキー4/炎の友情』、8月には『エイリアン2』や宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』、そして12月に『トップガン』が日本公開され、各作品が大ヒットを記録するとともに、視覚表現の新たな可能性を提示しました。特に『天空の城ラピュタ』は、その美しい映像と独特の世界観で国内外のファンを魅了し、日本のアニメーションの地位をさらに高める結果となりました。テレビアニメでは、『ドラえもん のび太と鉄人兵団』や『宇宙船サジタリウス』、『メイプルタウン物語』など、子どもたちに愛される作品が次々と放映開始され、アニメ文化の普及に大きく貢献しました。

スポーツ界では、プロ野球においてセントラル・リーグでは広島東洋カープが、パシフィック・リーグでは西武ライオンズがそれぞれ優勝し、日本シリーズでは西武ライオンズが史上初の8戦決戦を制するという快挙を達成しました。清原和博がデビューし、高卒新人として最多の本塁打記録を打つなど、若手選手の台頭も目覚ましく、プロ野球界は熱狂的な支持を集めました。また、相撲の分野では、幕内最高優勝を果たすなど、伝統競技としての地位を保ちながらも、新たな横綱や大関の昇進が話題となり、国民の関心を引き続き集めました。プロレスにおいては、天龍源一郎やアントニオ猪木が輝かしい成績を収め、モータースポーツや自転車競技など、さまざまなスポーツイベントが開催され、国民に元気と感動を与えました。

このように、1986年は経済、政治、社会、文化、スポーツの各分野において、さまざまな革新と衝撃的な出来事が交錯した年でありました。企業の積極的な新製品の投入とブランド戦略、政治の刷新と国際的な動向、そしてファッションやエンターテインメントの新たな流行が、当時の日本社会に大きな影響を与えました。これらの出来事は、後のバブル景気の隆盛や日本の文化的成熟に向けた礎を築くとともに、国民一人ひとりの生活や価値観に深い変化をもたらし、現代日本の姿を形作る重要な転換期となったと言えるでしょう。

1986年の昭和歌謡:エンターテインメント大転換の記念年

1986年の日本の音楽シーンは、従来のアイドルポップや演歌の枠にとどまらず、ロックや洋楽の影響を色濃く受けた多様な表現が花開く、極めて活気ある一年でした。年初から石井明美の「CHA-CHA-CHA」や中森明菜の「DESIRE -情熱-」、そして少年隊の「仮面舞踏会」などが大ヒットを記録し、若者を中心に熱狂的な支持を集めました。これらの楽曲は、メロディアスなラインと印象的なパフォーマンスにより、リスナーの心に強く刻まれ、当時の流行の先端を走る象徴となりました。

一方で、海外の音楽も大きな影響を及ぼし、プリンスの「KISS」が日本国内でヒットしたことは、洋楽が持つ独特のグルーヴ感やエッジの効いたサウンドが、国内の音楽市場に新たな刺激を与える好例となりました。また、1986年9月にはプリンスが初来日を果たし、その斬新なファッションや舞台パフォーマンスが注目され、これまでの日本の音楽シーンに異質な風を吹き込むとともに、国際的な音楽文化の融合を感じさせました。

この年、またおニャン子クラブ、新田恵利、安全地帯、本田美奈子といった新進気鋭のアーティストが次々とヒット曲をリリースし、若者を中心に支持を拡大しました。これらのアーティストは、従来のアイドル像を刷新し、よりダイナミックで洗練されたステージパフォーマンスを披露することで、リスナーに新鮮な驚きと感動を与え、音楽業界全体の潮流を大きく変える原動力となりました。

音楽イベントの面では、12月31日に開催された第28回日本レコード大賞が、当年の音楽シーンを象徴する一大イベントとして注目されました。中森明菜が「DESIRE -情熱-」で大賞を受賞し、北島三郎が「北の漁場」で最優秀歌唱賞、少年隊が「仮面舞踏会」で最優秀新人賞を獲得、そして松田聖子がアルバム大賞を受賞するなど、各部門で華々しい受賞が相次ぎ、業界内外に大きな影響を与えました。これに続き、同年12月31日には第37回NHK紅白歌合戦が放送され、15時間にわたる大型ワイド特番「15時間ワイド日本列島大みそか」の一部として、従来の伝統を踏襲しながらも新たな試みが盛り込まれた豪華なステージが展開されました。司会には斉藤由貴と加山雄三が起用され、若手アーティストの初出場も相次ぎ、視聴者にとっては刺激的かつ感動的な夜となりました。

また、4月には日本テレビ系で新たなランキング形式の歌謡番組『歌のトップテン』が放送開始され、テレビを通じた音楽の楽しみ方が一層広がったことも大きな話題となりました。しかし、その一方で、アイドル歌手の岡田有希子が所属事務所の入居するビルの最上階から飛び降り自殺するという衝撃的な事件が発生し、若者の心に暗い影を落とすとともに、音楽業界全体に深い衝撃を与え、社会問題としても大きく報じられました。こうした悲劇は、エンターテインメントの華やかさの裏側に潜む厳しい現実を浮き彫りにし、業界内でのメンタルヘルスへの配慮やサポート体制の整備を促す契機となりました。

さらに、4月にはYOSHIKIがエクスタシーレコードを設立し、これが後のヴィジュアル系バンドやロックシーンの新たな潮流を生み出す重要な一歩となりました。こうした動きは、音楽制作の多様化を推進し、従来の枠にとらわれないクリエイティブな表現が求められるようになったことを示しています。また、10月24日からテレビ朝日系の歌謡番組『ミュージックステーション』が放送開始されたことは、音楽番組の新たなスタンダードを築くとともに、アーティストと視聴者との距離をより一層縮める役割を果たし、以後の音楽テレビ文化に多大な影響を与えることとなりました。

総じて、1986年はヒット曲の数々と革新的なイベント、そして数多くの新たなアーティストの登場により、日本の音楽シーンに大きな転換点をもたらした年でございました。これまでの伝統的な音楽スタイルに加え、洋楽の影響や新しいレコードレーベルの誕生、そしてテレビ番組の刷新といった多方面からのアプローチにより、音楽業界は急速な変革を遂げました。こうした変化は、後の1990年代以降に台頭するJ-POPの多様性や、音楽メディアの進化、さらにはアーティスト個々の表現力の向上に大きく寄与し、現代の日本音楽シーンの礎を築いたといえます。

1986年(昭和61年)の名曲、ヒット曲リスト

以下に、1986年のオリコン総合シングル・チャート(邦楽・洋楽総合)を紹介します。

1位 石井明美:「CHA-CHA-CHA」
2位 中森明菜:「DESIRE -情熱-」
3位 少年隊:「仮面舞踏会」
4位 KUWATA BAND:「BAN BAN BAN」
5位 渡辺美里:「My Revolution」
6位 小林明子:「恋におちて -Fall in love-」
7位 中森明菜:「ジプシー・クイーン」
8位 KUWATA BAND:「スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)」
9位 チェッカーズ:「OH!! POPSTAR」
10位 河合その子:「青いスタスィオン」
11位 チェッカーズ:「Song for U.S.A.」
12位 荻野目洋子:「ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)」
13位 新田恵利:「冬のオペラグラス」
14位 国生さゆり with おニャン子クラブ:「バレンタイン・キッス」
15位 KUWATA BAND:「MERRY X’MAS IN SUMMER」
16位 TUBE:「シーズン・イン・ザ・サン」
17位 うしろゆびさされ組:「バナナの涙」
18位 1986 OMEGA TRIBE:「君は1000%」
19位 斉藤由貴:「悲しみよこんにちは」
20位 小林旭:「熱き心に」
21位 小泉今日子:「なんてったってアイドル」
22位 新田恵利:「恋のロープをほどかないで」
23位 おニャン子クラブ:「じゃあね」
24位 吉沢秋絵:「季節はずれの恋」
25位 中森明菜:「Fin」
26位 少年隊:「デカメロン伝説」
27位 椎名恵:「今夜はANGEL」
28位 C-C-B:「空想Kiss」
29位 国生さゆり:「夏を待てない」
30位 レベッカ:「フレンズ」
31位 とんねるず:「歌謡曲」
32位 本田美奈子:「1986年のマリリン」
33位 菊池桃子:「夏色片想い」
34位 安全地帯:「プルシアンブルーの肖像」
35位 うしろゆびさされ組:「渚の『・・・・・』」
36位 岡田有希子:「くちびるNetwork」
37位 うしろゆびさされ組:「象さんのすきゃんてぃ」
38位 中山美穂:「色・ホワイトブレンド」
39位 菊池桃子:「Broken Sunset」
40位 レベッカ:「RASPBERRY DREAM」
41位 高井麻巳子:「シンデレラたちへの伝言」
42位 菊池桃子:「Say Yes!」
43位 吉川晃司:「キャンドルの瞳」
44位 おニャン子クラブ:「おっとCHIKAN!」
45位 杉山清貴:「さよならのオーシャン」
46位 渡辺美奈代:「瞳に約束」
47位 1986 OMEGA TRIBE:「Super Chance」
48位 チェッカーズ:「NANA」
49位 渡辺美里:「Teenage Walk」
50位 新田恵利:「不思議な手品のように」

オリコン総合アルバム・チャート(邦楽・洋楽総合)

1位 安全地帯:『安全地帯IV』
2位 KUWATA BAND:『NIPPON NO ROCK BAND』
3位 レベッカ:『REBECCA IV 〜Maybe Tomorrow〜』
4位 松任谷由実:『DA・DI・DA』
5位 松田聖子:『SUPREME』
6位 中森明菜:『BEST』
7位 渡辺美里:『Lovin’ you』
8位 小林明子:『FALL IN LOVE』
9位 杉山清貴&オメガトライブ:『FIRST FINALE』
10位 山下達郎:『POCKET MUSIC』
11位 杉山清貴:『beyond…』
12位 TUBE:『THE SEASON IN THE SUN』
13位 マドンナ:『トゥルー・ブルー』
14位 レベッカ:『TIME』
15位 中森明菜:『不思議』
16位 稲垣潤一:『リアリスティック』
17位 ホイットニー・ヒューストン:『そよ風の贈りもの』
18位 チェッカーズ:『FLOWER』
19位 スティーヴィー・ワンダー:『イン・スクエア・サークル』
20位 1986 OMEGA TRIBE:『Navigator』
21位 浜田省吾:『J.BOY』
22位 渡辺美里:『eyes』
23位 シンディ・ローパー:『トゥルー・カラーズ』
24位 中村あゆみ:『FAIR CHILD』
25位 吉川晃司:『MODERN TIME』
26位 斉藤由貴:『ガラスの鼓動』
27位 中森明菜:『MY BEST THANKS』
28位 HOUND DOG:『SPIRITS!』
29位 おニャン子クラブ:『夢カタログ』
30位 C-C-B:『僕たちNo-No-No』
31位 チェッカーズ:『SONG FOR U.S.A』
32位 聖飢魔II:『THE END OF THE CENTURY』
33位 菊池桃子:『アドベンチャー』
34位 ビリー・ジョエル:『ザ・ブリッジ』
35位 本田美奈子:『M’シンドローム』
36位 高中正義:『JUNGLE JANE』
37位 サウンドトラック:『ロッキー4/炎の友情』
38位 尾崎豊:『壊れた扉から』
39位 うしろゆびさされ組:『ふ・わ・ふ・ら』
40位 新田恵利:『ERI』
41位 a-ha:『ハンティング・ハイ・アンド・ロウ』
42位 矢沢永吉:『TEN YEARS AGO』
43位 サウンドトラック:『プルシアンブルーの肖像』
44位 矢沢永吉:『東京ナイト』
45位 シャーデー:『プロミス』
46位 ライオネル・リッチー:『セイ・ユー、セイ・ミー』
47位 アルフィー:『THE BEST SONGS』
48位 おニャン子クラブ:『PANIC THE WORLD』
49位 斉藤由貴:『チャイム』
50位 杉山清貴&オメガトライブ:『SINGLE’S HISTORY』

コメント

タイトルとURLをコピーしました